古座間味浜
貝の渚 第四話
古座間味浜 名和純
Yさん、いかがお過ごしですか。
沖縄は、このところ春のような暖かい日が続いています。
そのやわらかい空気にそそのかされてか、
いままで歩いてきた貝の渚のことがしきりに思い出されるのです。
先週、子供たちの授業の下見に座間味島の古座間味浜へ行ってきました。
この浜に行くのは、二十歳(はたち)のとき以来です。
浜は、あのときのまま、ありました。
汀(みぎわ)に沿って無数に打ち上げられた貝の帯が、陽の光を浴びて宝石のように輝いています。
弁当を食べるのも忘れて貝拾いに熱中して、ふと、顔を上げると紺碧の海。
あのときもこの海を視(み)た。
そこには、果てしない未来が開けていた。
あれから僕は、貝を求めてひたすら渚を歩き続けた。
その足取りを消していくように、貝の渚は次々と埋め立てられていきました。
それでも僕は貝を拾い続けるしかなかった。
でも、それで不思議と生きてこられた。
古座間味浜のことは、一度行ったきりずっと忘れていました。
珍しい貝のぎっしり詰まった古い小箱を偶然見つけるまでは。
それは、拾ったことすらとうに忘れてしまっていた古座間味浜の貝たちでした。
それを分類して名前をつけていると(250種ありました!)、あの浜がしきりに呼ぶのです。
気づいたときには、古座間味浜に立っていました。
そしてまた、200種もの貝を浜から借りてきてしまいました。
今それに名前をつけて、子供たちに見せる標本を作っています。
今月末には、15人の子供たちを連れて古座間味浜へ行きます。
僕の前にはまた、果てしない未来がひらけています。
それはどこまでも続く貝の渚。
Yさんも、いつかきっと古座間味浜へ連れて行くからね。
では、またお便りします。
古座間味浜 2010年1月
古座間味浜の貝の帯
ーえころん通信 2010年2月号よりー